筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)


筋・筋膜性疼痛症候群は筋肉や筋膜が原因となって強い痛みやしびれを引き起こす疾患です。現在では筋肉や筋膜という骨格筋だけでなく、靭帯や腱などの関連組織、脂肪や内臓を包む膜(心膜や胸膜、腹膜など)も含めて原因となりうると考えられています。線維筋痛症や筋痛性脳脊髄炎、慢性疲労症候群などと同様に、画像検査や血液検査など一般的な検査をしても異状が見つからないことから、医療者の中でも認知度が高くない疾患であり、実際に椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、神経根症などの疑いというような診断がなされていることが少なくない疾患です。

 

痛みが中心となる症状は強弱の個人差があるものの、おおむね強い痛みやしびれが伴っていることが多く、アキレス腱や足裏、肘、太腿、下腿、上肢、頸肩部など症状が特定された部位に限られる場合や、それが複数重なることによって全身に広がっている場合があります。仕事や家事などの日常生活が困難となる重症から、我慢すればなんとか生活は送ることができるという程度まで、幅広いレベルと様々な範囲にわたる症状と、周囲の理解を得られにくい環境によって、少なくない患者様が悩んでいます。

 

この疾患の原因ははっきりとは解明されていませんが、何らかの原因によって筋肉や筋膜などの組織に微小な傷が生じ、それがきっかけとなって慢性的な炎症や血流不全、周囲との癒着を繰り返すことで、自己修復できない状況に陥り、強い痛みやしびれが引き起こされていると考えられています。

また、症状に長期間さらされ続けることによって脳や視床などの中枢神経系を含めた神経伝達系統に機能障害が起きてしまうと、さらに難治性となってしまいます。脳や視床は全身からの感覚の伝達を受けてその認識と抑制を行っていますが、何らかの原因でこの機能に誤作動が生じて過剰に認識したり抑制ができなくなると、通常では痛みを感じない程度の弱い刺激でも痛みを感じるようになります。

 

全身に拡がった痛みやしびれの原因は、主に全ての感覚の中継地点である視床が起こしている機能障害にあると考えています。全身に拡がってしまった症状の病態は、痛みの慢性化によって視床周囲の神経細胞に関連する流れが滞り、炎症を起こしている状態といえます。(この炎症は検査ではあらわれないものです。)視床は脊髄全体と関与しているので、身体中のどの部位にも症状が現れる可能性があり、炎症の程度によって症状の強さも変化します。

 

特定の部位に症状が現れる場合は、症状の現れる部位に対応した脊髄の炎症や交感神経の障害による血流の低下や柔軟性の低下が元の原因といえます。中枢神経系に原因があることによって、局所の筋肉や筋膜はダメージを受けやすくなるため、実際の症状(局所の痛みやしびれ、トリガーポイント)が生じると考えられます。

 

また、局所的な筋筋膜性疼痛症候群では頻度は多くないものの、痛み以外に現れる症状として、疲労感や倦怠感、睡眠障害、うつ症状がある場合があります。このような症状も現れるのは、慢性化して線維筋痛症(FM)の進展してしまった状態と考えられます。視床のすぐ近くにある視床下部、頭痛やめまいは脳幹や頚髄が機能障害を起こしていることによって起こります。遠絡療法では経絡を応用した治療によって、障害されている神経とその周囲の循環を改善し、炎症を抑えて組織の修復を速めていきます。

 

遠絡療法による治療法

 

症状の発症部位や性状からおおもとの原因となっている障害部位を特定します。

はっきりした原因のない四肢の痛みの多くは脊髄が原因であり、症状が1,2箇所ではなく全身であったり、あちこちにあるような場合は脊髄と脳の中継点である視床が障害されていることが考えられます。

 

そこで遠絡療法では、まず脳に血液を供給する血管(主に頚部の動脈)を拡張して血流を増やすことに加えて、脳および脳幹の細胞周囲の微小循環の活性化と脳から血液を運び出す血管(主に頚部の静脈)の働きを高めて、脳・視床・脳幹の血流と循環状態の改善をはかります。さらに障害部位に対応した治療点を応用して、視床、視床下部の神経細胞に関係する流れの滞りを取り除き、炎症があればそれを抑えます。

 

視床、視床下部は脳の奥に存在する為、炎症を抑えるために少し時間がかかりますが、ほとんどの場合で改善が期待できます。軽度の場合は数回の治療で改善を実感できることも多いです。(重症の場合は通院自体が困難なため治療も難しいですが、薬物療法などと併用することで少しずつ改善することはできます)

 

筋・筋膜性疼痛症候群の場合は、局所の筋肉や筋膜に慢性的な炎症や血流不全、癒着等も生じていることが多いため、おおもとの原因と考えられる中枢の治療だけではなく、症状のある部位自体の治療も合わせて行います。遠絡療法では経絡を応用し、実際には症状部位とは離れた治療点を用いて、症状のある部位の血液・体液循環を改善し癒着、固縮を緩めます。痛みのある部分を刺激しないため、揉み返しや反動による痛みの強化などの副反応がありません。(遠隔的にトリガーポイント治療を行うようなイメージです。)

 

また、日常生活の疲労やストレスは交感神経を興奮させて脳への血流を減らすことから、回復を速めるためには交感神経が興奮し続ける時間を少なくすることが大事で、これには趣味や好きなことをするなど心身がリラックスして副交感神経が高まることや適度な運動や規則正しい生活が効果的です(運動などは症状を悪化させない範囲で行います)。遠絡療法では原因となっている視床、視床下部、脳幹、頸椎の神経に対応する治療点を利用して、神経細胞の循環不全や炎症の除去、ダメージの修復を促進しますので、日常生活を気をつけることと合わせることで、効果的に症状を改善させることができます。

 

遠絡療法は副作用がない治療のため、ペインクリニックや神経内科で処方される内服薬を服用しながらでも並行して治療を行うことができます。一般的に行われているトリガーポイント治療や内服薬、ストレッチなどの理学療法とあわせて行うことで相乗効果を期待できます。